明け方。
まだ日は昇っていない。
突然の激しい揺れで目が覚めた。
家具が倒れる音。
ガラスの割れる音。
家がきしむ。
やがて揺れは止まった。
静寂。
――いや、違う。
電気がついていない。
停電だ。
外はまだ薄暗い。
窓の向こうを見ると、古い建物が傾いている。
倒壊している家もある。
胸がざわつく。
「みんな無事だろうか?」
そう思った瞬間、寝室のドアが開いた。
妻と子供たちが立っている。
「大丈夫?」
良かった。怪我はなさそうだ。
家の中は散乱している。
当然、電気はつかない。

まずは情報だ。
スマホを開く。
だが、画面は固まったまま。
アクセス集中か。
通信障害が起きているようだ。
情報がないと、不安は膨らむ。
スマホのライトを頼りに、クローゼットへ向かう。
奥に置いてあるポータブル電源を取り出す。
重いが、確かな存在感がある。
テレビのコンセントを差し替え、電源を入れる。
数秒後――画面が点灯した。
「ただいま大規模地震が発生しました。」
震源地、震度、被害状況。
この地域は津波の心配はないらしい。
今すぐ避難する必要はなさそうだ。
情報がある。
それだけで、冷静な判断ができる。

子供が言う。
「お腹すいた…」
そうだ。日常は止まらない。
ポータブル電源に電気ケトルをつなぐ。
非常用に備えていた水を入れ、湯を沸かす。
湯気が立つ。
カップ麺で許してもらおう。
こんな状況でも、温かい食事がある。
それだけで、家族の表情が少し柔らぐ。
町は止まっている。
でも、わが家はかろうじて動いている。
完全ではない。
だが、無力でもない。

災害は防げない。
しかし、電力を最低限確保できるだけで、
- 情報が取れる
- 判断ができる
- 食事ができる
- 家族が安心できる
「完全に無力」ではなくなる。
防災グッズに水や非常食を入れるように、
ポータブル電源を一つ加えるだけで、
安心という備えを手に入れられる。
あの朝、暗闇の中で思った。
「買っておいてよかった。」
それは、家電の満足感ではなく、
家族を守れたという実感だった。
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